人事総務の兼務体制が続く会社で起きやすい問題と対処の考え方
〜「誰でもできそうな仕事」ではなく「誰がやるか曖昧な仕事」が危機を生む〜
「うちは人事と総務を1人に任せています」——中小企業ではよくある体制ですが、この一言の裏に、気づきにくい問題が積み重なっています。
採用・育成・評価・給与・社会保険・備品管理・施設管理と、組織の日常業務が一人に集中する状態は、負荷過多と属人化が同時に進みやすい。どちらか一方であればまだ対処できますが、両方が重なると、担当者も経営も気づかないまま問題が蓄積します。担当者が長年頑張っているから表面化しにくいだけで、体制として脆弱なままになっているケースも少なくありません。
※個別の事情によって判断は異なるため、「現場で整理するための考え方」としてご覧ください。
人事総務兼務体制で起きやすいこと
- 業務量の過多が質の低下と見落としを生む
- 属人化が進み、引継ぎが困難になる
- 法令対応の遅れが会社全体の問題になる
兼務体制の課題は「担当者の能力不足」ではなく、業務量と役割の設計の話です。中小企業ほど一人が担う範囲が広くなりやすく、それが何年も続くうちに「これが普通」と思い始めます。外から見て初めて気づく、というケースが少なくありません。「担当者がうまくやってくれているから問題ない」と思えるうちは、なかなか見直しの機会が生まれないのが実情です。
● 業務量の過多が質の低下と見落としを生む
- 人事業務と総務業務を兼務すると、締め切りが重なりやすく、優先度の高い対応が後回しになります
- 法令対応や採用業務が手薄になるのは、担当者の怠慢ではなく処理量の問題です
- 「いつも忙しそうにしているが、何をやっているか管理職も把握していない」という状態は、負荷過多のサインです
締め切りが重なる時期(年度末・入社時期・年末)は特に顕著で、後回しにした対応がそのまま放置されます。担当者は「今は手が回らない」と分かっていても、動けないまま時間が過ぎます。一人の担当者が採用・社保・書類整理を週ごとに切り替えながら対応が長期化すると、どれも中途半端になっていきます。何をどう改善すればいいか見えなくなっている会社もあります。まず担当者に「今どんな業務をどのくらい抱えているか」を書き出してもらうだけで、課題の輪郭がはっきりします。
● 属人化が進み、引継ぎが困難になる
- 兼務担当者は「自分しかわからない業務」を大量に抱えがちです
- 手順書もなく、記録も散在し、社内の誰も全体像を把握していない——そんな状況が続きます
- 退職・長期休暇・異動のたびに大混乱が起きるのは、属人化が進んだ結果です
担当者自身も「引継ぎが大変になる」と知りながら、日々の業務に追われて手順書を作れないまま時間が過ぎます。そのまま退職や異動が発生すると、後任者が本当に困ります。「あの人が転職したいって聞いたけど大丈夫か」という経営の不安が現実になったとき、初めて属人化の深刻さに気づく、ということが少なくありません。もし主要な担当者が突然休んだとして、翌日から業務が回るかどうかを想像してみると、属人化の度合いがよく見えます。引継ぎできていない業務を把握することで、優先的に記録化すべき領域が見えてきます。
● 法令対応の遅れが会社全体の問題になる
- 労働関連法令の改正は毎年続いており、対応が必要な手続きが定期的に発生します
- 業務過多の状態では対応が後手に回り、気づいたときには法令違反になっているケースがあります
- 専門性が求められる領域ほど、兼務体制では手薄になりやすいです
「改正があったのは知っていたが、対応できていなかった」という状況は、兼務体制の会社で起きやすいパターンです。担当者が知らなかったわけでなく、優先度をつけながら動く余裕がなかっただけです。人事担当者が一人で法改正をキャッチし、就業規則や協定を見直し、手続きを完了させるというのは、業務過多の状態ではハードルが高い作業です。兼務体制が続いている会社ほど、法令対応が後手になっていないか一度確認してみる価値があります。直近1〜2年で対応した法改正を担当者に確認するだけでも、見落としがないかを把握するきっかけになります。
兼務体制が組織全体に与える影響
- 採用・育成への注力が難しくなる
- 管理職・経営が状況を把握しにくくなる
- 担当者の離職で業務が止まる
担当者個人への影響だけでなく、組織全体に波及していることも見ておく必要があります。特に経営・管理職が気づきにくい部分に、じわじわと課題が積み重なっています。「担当者が何とかしてくれているから大丈夫」と思っている間は表面化しません。何かが起きて初めて深刻さが見える、というパターンがよくあります。担当者が自分で抱え込んでいる間は、経営には見えにくいのが、この問題の難しさです。
● 採用・育成への注力が難しくなる
- 採用・育成・評価制度の運用に、十分な時間と質を確保できなくなります
- 総務業務の事務処理に追われると、戦略的な仕事が後回しになります
- 採用が後手になり、育成が進まず、評価が形骸化するのは担当者ではなく、体制の問題です
「もっとちゃんと採用に向き合いたい」「評価制度を見直したい」と思いながら、日常業務に時間を取られているなら、それが兼務体制のよくある姿です。やりたいことがあっても手が届かない、というのが担当者の本音です。採用担当としての機能を持ちながら、総務担当としての日常業務もこなすという体制が続くと、どちらも半端になります。人材確保が課題になっている会社ほど、この状態を見直す優先度が高いです。採用に注力したいなら、まず担当者が採用に集中できる余地をつくることが先決です。
● 管理職・経営が状況を把握しにくくなる
- 兼務担当者が「一人でなんとかしている」状態では、管理職も経営も何が起きているかを把握しにくくなります
- 問題が表面化したとき、「そんな状況だったのか」と驚くケースは珍しくありません
- 担当者が孤立すると、問題の早期発見が難しくなります
担当者が「相談しにくい」「忙しすぎて余裕がない」まま続いていると、経営として把握しようがなくなります。気づかないまま話が大きくなった、ということは珍しくありません。「担当者が大丈夫と言っているから問題ないだろう」という思い込みも、見えにくくなる一因になります。業務の実態を定期的に聞く機会を意識的に持つと、早め早めに対応できます。経営が担当者の業務量を正確に把握しているケースは実は少なく、何をどのくらい抱えているか一度棚卸しして共有するだけで、経営の見方も変わります。
● 担当者の離職で業務が止まる
- 兼務担当者が退職すると、業務の全体像や手順が会社から出ていくことになります
- 後任者が一から立ち上げなければならない状況は、組織として最もコストのかかる事態の一つです
- 在籍中に引継ぎ資料を整備できているかどうかが、大きな備えになります
「あの人がいなくなってから大変だった」という経験は、兼務体制の会社でよく聞く話です。担当者に悪意があるわけではなく、整備する時間がなかっただけです。だからこそ、在籍中に少しずつ形にしておく必要があります。引継ぎが大変な理由の多くは、情報が頭の中にしかないからです。書き出されてさえいれば、後任者がゼロから立ち上げる必要はなくなります。引継ぎの仕組みを整えることは、在籍している担当者への配慮でもあります。「全部を一人で抱えなくていい体制をつくる」という経営の姿勢は、現場の負担を軽くします。休みづらい・抜けづらい状態を放置しないことも、組織として大切な視点です。
兼務体制の負荷を下げるために見ておきたいこと
- 業務を「外部に任せられるもの」と「社内でしか判断できないもの」に分ける
- 管理職が一部の業務を担う体制を考える
- 手順書・引継ぎ資料の整備を優先する
人員を増やせない中でも、見方を変えると負荷を下げる余地がある場合があります。今すぐ全部変えなくても、できるところから着手することです。「増員できないから仕方ない」と諦める前に、体制の見直しや外部への依頼で対処できることがあります。現状の業務量と役割分担を棚卸しして、何から着手できるかを整理することが、次の動き出しにつながります。
● 業務を「外部に任せられるもの」と「社内でしか判断できないもの」に分ける
- 定型的な業務は外部に委託することで、担当者の手が空きます
- 社内でしか判断できない業務と、外部に任せられる業務を分けて考えることが先決です
- 外部委託の検討は、担当者の負荷を下げながら専門性を確保する方法の一つです
「外部委託は費用がかかる」と思われがちですが、担当者の残業・ミス・業務停止の可能性を考えると、費用対効果として検討する価値があります。すべてを委託しなくても、一部を任せるだけで、かなり変わります。何を外部に任せていいか分からない場合は、まず現在の業務を書き出してみると見えてきます。「これは外に任せていいのか」という迷いがあるものは、社労士や専門家に一度聞いてみるだけで判断しやすくなります。外部委託は「丸投げ」ではなく、社内リソースを本来必要な業務に集中させるための選択肢の一つです。経営として方針を持ちながら進めることが、担当者の安心にもつながります。
● 管理職が一部の業務を担う体制を考える
- 管理職が担える業務を明確にし、役割を分担することが有効です
- 「人事総務担当者がすべてをやる」という思い込みを外すことが先決です
- 人事がコーディネーターとして動ける状態が、一つの目標になります
管理職が「部下の有給申請の確認」や「面談記録の作成」を担うだけでも、兼務担当者の実質的な負荷は変わります。全部を一人に集中させないことが肝心です。「自分の仕事ではない」と管理職が思っている業務を見直し、一部を任せる体制に変えることが、兼務担当者の状況を変えます。担当者が抱えている業務の一覧を管理職と共有するだけでも、「これは自分が担える」と気づく管理職もいます。役割分担は制度を変えなくても、話し合いで始められます。「自分が担える部分はないか」と管理職が考える文化ができると、兼務担当者への業務集中が少しずつ変わっていきます。
● 手順書・引継ぎ資料の整備を優先する
- 兼務体制が続く間は、「誰が見てもわかる手順書」を整備しておくことが備えになります
- 手順書の整備は担当者一人に任せず、経営として優先事項に位置づけることが必要です
- 手順書があるだけで、引継ぎの負荷と属人化が大幅に緩和されます
手順書を作る時間が取れないのは、よく聞く話です。ただ、作らないまま退職・異動が発生すると、その後の対処コストは格段に上がります。担当者が動ける間に、少しずつ形にしておく必要があります。「手順書を作りなさい」と担当者に言うだけでなく、経営として時間を確保する環境づくりが必要です。担当者一人の意識の話ではなく、体制の話として扱うことが大切です。担当者が「やっておきたいが後回しになっている」ことを経営が優先事項として扱う、そのシグナルが現場にはきちんと伝わります。
まとめ
- 人事総務の兼務体制は、負荷過多と属人化が同時に進みやすい体制です
- 担当者の能力の問題ではなく、業務設計の話として経営・管理職が認識しておきたいところです
- 外部委託・役割分担・手順書の整備を組み合わせることで、コストを抑えながら対処できます
「担当者が頑張っているから今は回っている」という体制は、いつか限界を迎えます。大がかりな組織変更をしなくても、役割の分け方や外部への依頼の仕方を少し変えるだけで、ずいぶん変わります。兼務体制は「仕方ない」で片付けられることも多いですが、放置すると担当者の疲弊と組織の脆弱性が同時に積み重なります。小さなことから手をつけ始めることが、長い目で見ると一番の近道です。
何から始めるか迷ったら、担当者がどれだけの業務を抱えているかを一度書き出してみることです。一人でこなしていることと、一人に任せすぎていることを分けて見るだけで、次に何をすべきかが見えてきます。この作業は担当者一人でやるより、管理職も一緒に確認しながら進める方がスムーズです。現状を共有してから動き始めることが、見直しをスムーズに進めるコツです。
人事課題の本質を整理するには、こちらの記事も参考になります。
人事総務の兼務体制について、一緒に考えます
「一人に任せすぎていないか」「このままで大丈夫か」——そう思ったときが、見直しのタイミングです。現状の体制を一緒に見ていきます。